ロストしたジグの行く末を想像する
磯からジグを使って青物を狙う。サーフの底にいるヒラメを探る。そんな釣りをしていると、ジグが岩や海藻に引っかかることがある。その際、試行錯誤しながらジグを回収しようとするが、最終的には糸を切ることに……(そもそも、根掛かりの原因が釣りゴミということも考えられる)。釣り人が悔しがるのは一時的で、すぐに忘れてしまう。気にするのはなくしたジグの値段やPEラインを再び結ぶ手間だろう。しかし、ジグは海中にゴミとして残り、環境に影響を与え続けるというのに、私たちはすぐに次のジグを投げはじめる。釣り人の多くが思考停止してきた問題解決に取り組んでいるのが、静岡県沼津市でマリンスイーパーを運営する土井佑太さんだ。土井さんはマリンスイーパー(海の掃除屋)として潜り、ルアーを回収し、リメイクジグを販売する事業を行っている。
僕も海に釣りゴミを投げ込んでいる側だった
土井さんは海に潜り、ジグを中心とした釣りゴミを回収している。回収したジグは洗浄し、再加工してリメイクジグとして販売される。また、鉛を溶かしてオリジナルのジグに作り直すこともある。このように手間をかけてロストしたジグを再生する土井さんは、子どもの頃から自然が大好きな釣り少年だった。
「記憶のない小さな頃から親に連れて行ってもらっていました。小学生くらいからは友だちと釣りに行くようになり、野池でブラックバスを釣ったり、海で餌釣りをしたりと、幅広く釣りをしていましたね。当然、ルアーをなくしたり、ジェット天秤をロストすることもありました。私も散々、海に釣りゴミを投げ込んできた側の人間でした」と、土井さんは懐かしそうに話す。
土井さんによれば、彼が子ども時代に楽しんだ思い出の場所も、今では釣り禁止になっていることが多いという。堤防の入口に柵が設置されたり、釣り場付近全体が駐車禁止になった経験を持つ読者も多いだろう。安全面、駐車場、ゴミの放置、トイレの問題、禁止されている場所への立ち入りなど、釣り人が原因となる問題が多発している。
「コロナ禍で釣り人が増えました。急激に釣り人口が増えたときのマナー違反の問題も多かったですが、マナー以外の問題もあります。現在、社会全体からグレーゾーンがなくなってきており、何事も白黒はっきりさせようとする傾向があります。そうなると、グレーな部分の多い釣りは難しい問題を抱えることになります。本来は漁業関係者が使う漁港や防波堤周辺エリアなどは、今後の存続が難しいのかもしれません」
問題のひとつが釣りゴミだ。令和の時代にわざわざ海にゴミを捨てる人はいないだろうが、ルアーをロストした際に不本意ながらショックリーダーやPEラインごと海中に放置してしまうことがある。それらが海底で絡まり合うと、ルアーがロストしやすい新たな場所が生まれる。さらに漁具や生物(魚や鳥など)に絡まるなどの悪循環が起こる。地上でそのような状態を確認できれば清掃ができるが、一般の人は海中を見ることができない。土井さんは釣り人たちからルアーをロストしやすい場所をリサーチし、各方面に許可を取った上で海に潜り、清掃活動を行っている。土井さんに活動のきっかけを聞くと、大学在学中にダイビングで見た風景だと言う。
「大学でダイビング部に入りました。ダイビングを始めた頃は、海や魚がきれいで、ゴミなんて見えませんでした。しかし、少し海に慣れた頃、三保エリアを潜ったときに、海底には想像以上の釣りゴミがあったんです」。海は美しいだけでなく、こんなにもゴミが散乱する場所もあるのか。土井さんにはその光景が強く記憶に残り、釣りゴミ問題を考えるようになった。が、当時は大学生で解決策があるわけでもなかった。ブレークスルーを起こせるようなアイデアもなかった。そもそも、ダイビングはお金のかかるスポーツだ。ダイバーたちはお金、時間、安全などの高いコストをかけているわけであって、海を楽しみたい。わざわざゴミを拾う人はあまりいない。しかし、釣りゴミの存在に気づいてしまった土井さんは、海で釣りゴミを見つけたら拾うようになった。
2016年に東京の会社に就職したが、2018年に静岡にUターンすると、釣りゴミ拾いに力を入れるようになった。気がつくと数年で数千個のジグを回収していた。海底にあればゴミだが、資源として利用できないだろうか。そこで土井さんは「リメイクジグ」というアイデアを思いついた。SNSで知り合った人を通じて漁業関係者と知り合い、釣り具メーカーなどとの繋がりも増えていった。漁業や釣りに関係する人たちも、心のどこかで「なんとかならないか」という思いを抱えていたのだろう。土井さんの行動に多くの人が協力してくれるようになり、ルアー制作会社からジグの塗装技術などを学ぶことができた。ダイビングという技術と釣り具メーカーにはあまり接点がなかったため、釣り業界の中にジグを回収して再販するという選択肢はなかったようだった。これは事業化できると感じた土井さんは、2021年に脱サラし、「マリンスイーパー」として事業をスタートし、リメイク製品の販売を始めた。
釣りゴミが価値のある資源に変わる
海中でジグを回収するのは言葉で言うほど簡単ではない。ダイバーが釣り糸や古い漁具などに引っかかる「水中拘束」状態になると、訓練を積んでいないアマチュアダイバーにとって大事故につながる。「安易に釣りゴミの回収は行わず、もし行う場合は複数人でプロのダイバーと共に行ってほしい」と土井さんは言う。土井さんは回収を行う際、平日の日中で海の状態が穏やかなときに行うそうだ。多くのジグが落ちている海は、多くの釣り人が集まる人気の場所だからだ。
「根掛かりするエリアには何らかの理由があります。そのため、しばらくして同じエリアに行くと、再び根掛かりしたルアーが溜まっています。車にはいつでも潜れるダイビング器材を積んでありますので、それほど時間はかかりません。準備に30分、水中での作業に1時間、片付けに30分。1回の活動で約2時間海にいる計算です」
それでも、1時間の清掃活動で回収するジグは平均3~4キロほど。ジグを1つ30gとすると、約100個のジグやエギが集まることになる。30秒に1個程度拾う計算だ。時には400以上のルアーを回収したこともあるそうだ。しかし、土井さんの仕事は回収だけではない。ジグは海底に捨てられていればゴミだが、土井さんの手に触れると資源に生まれ変わる。
リユースジグの場合、ジグを洗浄してから針を外す。この作業は特別支援学校の人たちにお願いしている。状態の良いものはウレタンで再コーティングし、塗装が剥がれているものは塗装を剥離して鉛の状態にする。リユース工程が大変なため、最近ではよほど状態の良いもの以外は溶かして型に流し、オリジナルのジグとして水平リサイクルしている。水中の喪失物は水難救護法により取り扱いが定められており、各市町村単位での管轄となる。土井さんは各市町村や関係省庁の確認が取れたエリアで取得したものをリサイクルしているそうだ。
釣りは自然に親しむ入口の遊び
しかし、いくら清掃してもしばらくするとジグが再び溜まる。現状が変わらないことに苛立ちはないのだろうか。土井さんは、「ロストの多い釣り場自体を禁止にしたらいい」とは決して言わない。
「仮に釣りを禁止しても、海に蓄積したゴミはなくなりません。釣りは自然への入り口となる遊びです。その入り口を封鎖してしまうと、自然に親しむ人が減ってしまいます。禁止するよりも、自然と正しく付き合える人を増やしていく方が良いと思います。今の釣り文化自体は、自然環境に良いとは言えませんが、ここからレベルアップしていけば良い。釣り自体を環境に配慮した文化にまで成長させなければなりませんね」
現在、土井さんはマリンスイーパーの人材教育を進めている。全国の海をマリンスイーパーで網羅すれば、根掛かりしたルアーが土井さんの元に集まってくるという構想だ。さらに、ダイバーがアプローチできない深い海への進出も考えている。深い海は人が容易に近づけないため、水中ドローンを活用することを検討している。水中のゴミを拾い始めた頃から、土井さんを取り巻く世界は大きく変わった。SNS、環境意識、テクノロジー、クラウドファンディングなど、多くの変化が土井さんの活動を後押ししている。しかし、土井さんの行動に頼ってばかりではいけない。私たちはどのような態度や気持ちで釣りをするべきだろうか。
「根掛かりを完全にゼロにすることはできません。私が釣りをする時は、できる限り回収できる場所で釣りをします。ただ、それだけでは釣り場を守ることはできません。現在多くの場所では無料で釣りができますが、自分たちが利用した環境に対してなにかしらの負担をする時期が来るのかもしれません。例えば、『海釣りGO!!』という漁港の釣り場予約アプリが2023年に誕生しました。アプリを通して釣り場・駐車場の予約と利用ができるサービスです。釣り人を責任ある漁港利用者として位置付け、適切なルールのもとで利用料金を漁港管理者に届けることのできるサービスです。釣り場を守るというのは、環境面も大切ですが、釣り場に経済的な価値を持たせることによって維持管理するということ含まれると思います『海釣りGO!!』のような形も一つの方法なのかもしれません。釣り人はこれまで自然に負担をかけながら多くの場合無料で楽しんできました。しかし、この状態をそろそろ考える時期に来ているのかも。今はその過渡期かなと思います」
釣りにはロストは付きもの。「仕方がない」と諦めるのは簡単だ。しかし、無くした釣り具の行方に想像を働かせ、自分になにができるかを考えることは無駄ではないだろう。Marine Sweeperの再生ジグを使用する、根掛かりの多いところではトリプルフックを避ける、そもそもその場所で釣りをしないなど、私たちには思考停止以外のオプションがある。根掛かりの多いポイントを前にしたら、深呼吸して考えてみよう。ロスとしたジグのそれからの行く末を。
海洋ゴミアップリサイクルルアーとメタルジグを抽選で20名様にプレゼント
土井さんの活動から生まれた海洋ごみアップリサイクルルアーとメタルジグの2個セットを、抽選で20名様にプレゼントいたします。
海洋ごみアップリサイクルルアー
Metal Phoenix(メタルフェニックス) 40g
Marine Sweeper活動によって回収された海洋鉛を再生、材料にして作られた、海洋ゴミアップサイクルルアーです。
メタルジグ
Metal Sweeper (メタルスイーパー) 33g
ボトム&後方重心と背中のブレードによる高飛距離&高アピールなメタルジグ。根掛率減少という水中アクションを追い求めた形状は、水中での姿勢安定ギミックとして発動します。アクション後はオートマチックに水平姿勢に戻ろうとするため、次のアクションを正確に行うことが可能となります。
応募方法:FISHUP Magazineの公式アカウントをフォローして、プレゼントキャンペーンの告知投稿にいいねを押してください。当選者の発表はDM連絡をもって代えさせていただきます。アカウントを非公開にされている方、Instagramのガイドラインに反する投稿をされている方は、応募対象外となります。
応募締め切り:2024年7月15日(月)23:59まで
PLOFILE_土井佑太
Marine Sweeper代表。幼少の頃から釣りに親しみ、川や海で腕を磨く。大学で入ったスキューバーダイビング部で海中の素晴らしさに開眼。同時に、釣りゴミの存在に気づく。個人的に海中清掃を行っていたが、脱サラし2021年にMarine Sweepertとしての活動を本格開始。現在は水辺の清掃のほか、釣具の製造、小売、再生などを行いつつ、人材育成にも注力。全国にMarine Sweeperを配置する目標を立て日々邁進している。