
裏切られ続ける先にある発見
静岡県焼津市で生まれ育った港町の少年は、ルアーで魚を釣り上げた時の衝撃を今でも鮮明に覚えている。現在、羽山慎哉さんはYouTubeチャンネル「六畳一間の狼」を中心に釣りとアウトドアの動画を配信し、全国の釣り人に愛されている。人気コンテンツのサーフフィッシング動画に留まらず、堤防釣りから川釣り、餌釣りからルアー釣り、最近ではサバイバル要素を取り入れた企画まで、釣りの多様性を存分に表現する。羽山さんは何を思い、動画を発信するのか。焼津で羽山さんに話を聞きました。

初めてルアーで釣り上げた魚の衝撃
編集部:羽山さんが釣りを始めたきっかけは?
羽山: 一番古い記憶では、父親と地元の焼津(静岡県)でサビキ釣りをしたことですね。小学生になってからは、自転車に釣り竿を担いで友人たちと港に向かうという……、いわゆる絵に描いたような港町の少年生活を送っていました。自転車の荷台に小さなタックルボックスを括り付けて、餌を買いに行く。そんな毎日でした。
当時は今のように情報が豊富な時代ではありませんでしたから、すべて自力で試行錯誤していました。先日、YouTubeでフナムシを捕まえて魚を釣るといった企画をやったのですが、それも小学生の頃からやっていたことの延長ですね(笑)。それを今でも続けているということです。そこに僕の原点があります。
自分で「こういう魚がいるらしい」「これで釣れるらしい」という情報を探して、初めて釣った魚は今でもはっきりと覚えています。それは10歳のことでした。
釣り雑誌を読んでいたら、どうやらシーバスという魚がいることを知りました。シーバスが何かもよく分からない状態でしたが、どうやらスズキという名前で、しかもルアーで釣ることができるということでした。いてもたってもいられなくて、近所の釣具屋さんで若い店員さんに相談したところ、「とりあえず、これを投げていたら間違いないよ」と勧められたのがスピナーでした。そこでスピナーを付けて、バスロッドに3号のナイロンラインを巻いたリールで挑戦することになりました。謎の魚・シーバスは港の堤防で釣れるという情報だけを頼りに何度かスピナーを投げてみました。

季節は秋で川にはトンボがたくさん飛んでいました。魚がそのトンボを食べようと水面に出てくる様子を見ることができました。何度かスピナーを投げると、その動きに反応して魚が出てきたんです。すると、カーンとあたった。もう、びっくりですよね。その時の衝撃は鮮明に覚えています。今の基準で考えると小さな魚だったのですが、当時の経験値やタックルバランスも含めて衝撃です。まさかこんなに引くとは思っていませんでした。ただ、それはシーバスではなくウグイでした。だけど、ガツンと来た瞬間の感動が、釣りの面白さを知った原体験だったと思います。
その後、どうしてもシーバスが釣りたいと思い、雑誌を立ち読みして探求していくわけです。「レッドヘッドのミノー」というものがどうやらいいと知り、200円の中古ミノーを手に入れて、何度も川に行き、ようやく釣り上げました。30センチほどの小さなシーバスでしたけど、なんて美しい魚なんだって思いましたね。あとで知ることですが、僕の住んでいる焼津はシーバス釣りが難しい地域なんですよね。シーバスがそもそも少ない。そんな感じで、高校生くらいまで餌釣りやルアー釣りなど様々な釣りをして過ごしていました。特にブラックバスには一時ハマっていましたね。
大学在学中、友人に誘われて何の知識もないままに、映像制作の現場を経験しました。いまから考えると、よくある大学生の創作欲求と言えるかもしれませんが、その経験がなんだか楽しかったんですよね。実際に仲間と一緒に映像制作に取り組み、撮影から編集まで一連の作業を行うことの面白さを感じていました。現在でも、いつかは映画を作ってみたいという思いを持っています。

編集部:大学卒業後、釣り具店に就職したんですね。
羽山:ええ。大学卒業後、釣具店のイシグロに就職しました。会社には釣りの研修制度がありました。「釣り研修」では、2年間で16種類の釣りを習得させてくれます。これは、釣り具店の店員として、実際にあらゆる釣りができなければお客様に対応できないというイシグロの理念から始まった制度でした。「鮎の友釣り」なんて、急にひとりで始めることは難しいじゃないですか。道具もなければ、釣り場もわからない。でも、お店には「鮎の友釣りをしたい」というお客さんは来ますし(笑)。会社のお金で研修費を出してもらい、釣りに行く日も業務として扱われるという、今思えば非常に恵まれた制度でしたね。
イシグロではたくさんの経験をさせてもらいました。船でのイカ釣りや、個人では興味を持たないような釣り、渓流の餌釣りからオフショアのルアー釣り、ヘラブナ釣りまで、オールジャンルを経験しました。また、地域性のある釣りも多く体験させてもらいました。例えば「鮎の餌釣り」では、シラスのミンチを撒き餌にして鮎を釣る方法などを学びました。大人になると鮎は苔を食べますが、稚魚の頃は肉食性が強いため、それを利用した釣り方です。こうした釣りの経験は、現在のYouTube活動に大きく活かされています。一つの釣りに特化するのではなく、堤防釣りも川釣りも、餌釣りもルアー釣りも行うという現在のスタイルは、この時期の経験が基になっていると思いますね。周りには釣りの上手な先輩方がたくさんいて、現在でも良い関係を維持させていただいています。先輩方とのつながりから様々な釣りを学ばせてもらいました。
ただ、その後少し釣りから離れた時期がありました。仕事が非常に忙しく、なかなか釣りに行く時間が取れなかったのです。しばらくはブラックバス釣り程度でしたね。
YouTubeとの出会い、六畳一間の狼の誕生

編集部:その頃、動画制作を始めるのですか?
羽山:30歳の時に会社を辞めて静岡に戻りました。貯金もそれなりにあったので、1年くらいは好きなことをしようと考えました。なにができるだろうと考えたとき、そういや映像があるなと。もちろん、釣りもある。ふと自分で発信できる最大のプラットフォームってYouTubeなんだなと気がつき、動画投稿を始めることにしました。ちょうどその頃、YouTubeがまだ黎明期で、まさか仕事として成り立つような世界だと考えてはいませんでした。「釣りの番組を作りたい!」という気持ちで始めたのではなく、動画を撮る素材として「釣り」を選んだんです。
イシグロ時代に知り合っていたSUU(鈴木孝寿)ちゃんが焼津にいるということで声をかけると、ちょうど彼も何か一緒にやりたいと思っていたようでした。それで2人でYouTubeを作ろうということになりました。

最初の頃は深く考えずに動画を投稿していました。ただの釣りの記録です。それでも、1年ほど続けた時点で約3万人の登録者数まで伸ばすことができたんです。これは時代的な要因もあったと思いますね。当時、静岡で釣りをしているYouTuberがいなかったことも影響していたでしょう。YouTubeの活動は 1年の予定でしたが、アルバイトをしながら、もう少し続けられるかもしれないという可能性を感じ、継続することにしました。
僕はYouTubeというプラットフォームに対して、どういう風にやっていきたいか、どういうチャンネルにしたいかという考えを持っていました。ですので、SUUちゃんはよくそれについてきてくれたと感謝しています。SUUちゃんは釣りで生活していきたいという夢を昔から持っていました。僕としても、彼にも釣りで生活できるようにしてあげたいという思いがありました。
2024年12月、六畳一間の狼からSUUちゃんが独立しました。僕はこのまま六畳一間の狼というブランドで活動を続け、SUUちゃんはRicordoというブランドを立ち上げるという形になりました。それぞれが見たい景色、やりたいことに違いが出てきたからです。いろんな意見を頂きましたが、お互いにとって良い選択だったと思います。
六畳一間の狼をブランドとして考えた場合、流動性があることは良いことだと考えています。時代に合わせて変化していくことは自然なことですし、やがて六畳一間というブランドが成り立たなくなったとしても、それは時代の変化として僕は受け入れるつもりです。
自分の中のスイッチが入る瞬間

編集部:最近の六畳一間の狼の動画では従来の釣り路線だけでなく、サバイバル要素を取り入れた動画も制作していますね。
羽山:これは単純にやりたいと思ったことと、視聴者をびっくりさせたいという気持ちから始めました。イシグロ時代の先輩である岩見さん(初心者釣り教室TSURI TERAKO)が手伝ってくれることになり、休みの日を使って撮影に来てくれました。
サバイバル企画の時は、どちらかというと狩猟的な釣りになります。手段も問わずに、食料として魚を獲りにかかるような感覚です。狩猟という面を釣りに見出すことで、自分の中のスイッチが入ります。釣れなくても良いという通常の釣りではなくなるのです。食料ですからね。
このサバイバル動画では「想定外」をテーマにして制作しました。自分の想像を自然が結構超えてくることがあり、今回の撮影においては「マジか!」ということを多く経験しました。想定外にこそ釣りの楽しみがあるのではないかと考えています。

編集部:サバイバル動画からは釣りとは違う「どうなるんだろう?」という楽しみを感じますね。
羽山:ええ。釣りとサバイバルの関係に僕は可能性を感じていて、例えば「対馬でヒラマサを釣りに行こう!」という企画だったら、ヒラマサが釣れたか釣れないかという二択になってしまいます。しかし「対馬でサバイバルをやりましょう!」だったら、視聴者さんの関心は「何が起こるんだろう? 何が釣れるんだろう?」という楽しみに変わります。楽しみが増えるのです。この、「何が起きるんだろう?」というワクワク感を、動画を通してお伝えできたらいいなと思っています。
大物や珍しい魚を追い求めた釣りにももちろん価値はありますが、裏切られ続ける先に発見があるように思います。魚や自然の営みの中に自分が入った時に心が震える瞬間があるのです。再現性のない釣りというのも、僕には非常に魅力的です。そんな瞬間に触れると、釣りは浅くないなあと毎回思わされます。地元で10年通っているような場所でも、釣り方で変わる。釣りはもっと奥深いはず。僕が見えている世界は釣りの表層に過ぎないと感じています。今は自分の想定外の瞬間に出会った時、釣りの面白さを再認識することが多いですね。
僕はYouTubeの動画には二つの要素があると考えています。一つは見ている人が「自分でもできそう」という親近感のある内容。もう一つは「自分にはできない」というエクストリームな内容です。僕は両方をやっていきたいと考えています。
釣りを主軸にして遊び尽くし、それを動画にしていけたら。そうすることで人生が豊かになると思っています。ただ、大物がヒットするだけではなく、道の駅に寄ったりする車内の様子も含めて、釣りの楽しさを伝えたいと考えています。

編集部:六畳一間の狼の魅力の1つと言えば、サーフフィッシングですね。これを観ていると、ロードムービーのように感じることがあります。
羽山:サーフの釣りは最終的にはヒラメやマゴチなどのターゲットがいますが、サーフの場合はプロセスすら楽しい。辛さも楽しさも喜びも悔しさも、いろんな感情がそこにあるので、そういう感情を載せていくのがサーフ釣りの動画を作るのが好きな理由です。現在制作しているサーフシリーズでは、車の中での会話も含めて全てを拾っています。釣りに行く前の男たちの会話は基本的にとてもくだらないものですが、この道中がとても楽しかったりするものです。そういった部分も含めて映像にしたいと考えています。とにかくサーフの釣りは、一匹の価値がすごく大きいので、動画としても魅力的です。一日中やっても、ほぼ釣れない中でいろんな感情の動きがあるので、そこを表現していけたら一番良いと思っています。
パイオニア精神への憧れ

編集部:羽山さんはどんなものに惹かれるんですか?
羽山: 僕が好きなのはパイオニアです。例えばアジングを最初にやった人、小さな魚をルアーで釣ろうと発想してロジックを組んだ人、グレをルアーだけで釣ろうとしている人など、新しい釣りを開発していく人たちです。いま、レイクトラウトをビッグベイトでチャレンジし、それがスタンダードになりつつありますよね。そんなコトに挑戦している人たちに惹かれますね。釣りの世界のピースが欠けている、未知の部分にチャレンジし、ヒントを集めて新しい釣りを作っていくことに魅力を感じます。新しいチャレンジの中で、最初の1匹を釣り上げて感動したら、次は再現性を探していくフェーズに入ると思います。「多分こうじゃないかな」というのを突き詰めている時に、釣りは非常に面白くなります。そんな釣りに触れると、純粋な自然の営みの中に釣りがあるということを感じています。
編集部:羽山さんの映像は予想を裏切る展開が起きたりと、なにか物語がありますね。
羽山: 一つの動画の中にストーリーがあると良いと思っています。「釣れました!どや!」という動画よりも、僕がピエロになってでも最後にクスッとしてもらいたい。釣りそのものが面白いし、それを映像に収めるのも面白いし、それを発信してどういう反応になるかも面白いので、少しでもみんなの人生がちょっとだけ楽しくなってくれれば良いなと思うんです。
僕としては地元の釣りをやっている兄ちゃんくらいで良いと思っています。「俺はプロなんだぜ」みたいな感じではありたくないというのが正直なところです。みんなと同じなんだよというノリで、釣りをずっとやっていたいのです。僕だって釣れない時は釣れないし。ほんと、近所の兄ちゃんぐらいの存在でいてくれるのが一番心地よいです。
釣りは多様性があって、堤防釣り、川釣り、餌釣り、ルアー釣りも、すべてに価値があります。釣りを主軸にして全て遊び尽くし、それを動画にしていけたら、人生が豊かになると思っています。一匹の魚の価値を下げるも上げるも釣り人次第だと考えています。小さくても、逃がした魚でも、そこまでのストーリーが重要なんじゃないでしょうか。その釣りを記録し、たまに感動が生まれればいい。そんな気持ちで釣りや仕事に取り組んでいます。


YouTubeチャンネル『六畳一間の狼』主宰。映像を通じて釣りやアウトドアの楽しさを広く伝えている。釣りとサウナを愛するマルチアングラー。