
〜不自由だって面白い〜
最先端の快適さとは無縁の竹竿。しかし、その不自由さが生み出すスリルと奥深さこそが、釣りの醍醐味かもしれない??
ヴィンテージファッションのように、時を超えた道具とともに釣る——そんなちょっぴり天邪鬼で「ロック」な釣りの楽しみ方を、釣具メーカーで最新ルアーの開発に取り組むライター・黒神 樹さんが綴ります。
最新を追うだけが釣りの楽しみ方じゃない
最新のカーボン素材を使用。特殊技術を用いて製造。〇〇〇テクノロジー…。
釣具店に行くとこれらの言葉についつい心を踊らせてしまう。
釣果を求めるなら、プロのおすすめする最新タックルを揃えるに越したことはないだろう。
しかし、そんな最新の道具で釣果を追い求める釣りも楽しいけれど、そういえば初心者の頃は釣り場に立って、ただ糸を垂らすだけでも楽しかったような気がする。
もう一度「釣りの楽しさの原点」に戻りたい。そのためにまずは「竿の起源」に立ち返りたくなった。
竹竿で釣りをしてみたい
ー竹竿で釣りをしてみたいー
竹竿と言ってもただ竹を切ったものではなく、竿師と呼ばれる職人が1本1本手作業で竹を継ぎ、漆を塗って仕上げる工芸品のような『江戸和竿』を使って、釣りをしてみたいのだ。
ー江戸和竿とは?ー
もともと釣竿は一本の竹だけで作られる「のべ竿」が主流だったが、釣りの進化とともに数本の竹を組み合わせ一本の竿を組み上げる「江戸和竿」のような継竿(つぎざお)が主流となっていった。
この『江戸和竿』の始まりは、江戸時代中期に遡る。秦地屋東作(たいちやとうさく)という、紀州徳川家の武士だった人物が、江戸・下谷稲荷町の広徳寺前で和竿を販売したのがその起源とされている。彼は狙う魚に最適な調子になるよう、数本の竹を組み合わせ一本の竿を作り組み、継口に絹糸を撒き、その上から漆を塗って補強したものを販売した。それが現在の江戸和竿の原型となったといわれている。
しかし、その時代から幾星霜、今では比較的安価で優秀なグラスやカーボンを使った竿が主流になり、和竿は一部の酔狂な人達の趣向品になってしまった。
意外と安価で手にいれる
和竿は作り手が少なく、高価と思われるかもしれないが、フリマサイトを探すと昔の優れた竿師が手がけた立派な和竿が数千円〜数万円程度で売られていたりもする。当時は数十万円したはずの竿が、比較的安価で手に入れることもできるのだ。和竿は手入れさえしっかりしておけば一生使うことができるので中古品を手にしても十分使うことができる。(しかし、前の持ち主の扱い次第なので状態の善し悪しは賭け要素があるのは否めないが…)
運良く比較的状態がよく、値段もこなれた竿を見つけ、これはしめたと入札してみた。
和竿を手に入れたからには、それに合うリールも探したい。そう思って物色していると、「ABUのアンバサダー 10000C」というリールを見つけた。これも5,000円程度で手に入った。実際のところ「釣りをする」だけであれば、このリールで十分だ。
和竿に最新のリールは似合わない気がする。最新のリールは、ドラグ(糸の滑りを調節する機能)やリーリング(巻き取り)の快適さは優れているが、そういった機能がなくても釣りはできる。糸を巻けるという最低限の機能さえあれば、それで十分なのだ。
最新の道具に頼らず、古の道具を使い、不自由さを楽しみながら釣るのも、ある意味「ロック」な釣りではないだろうか。

自然と笑みがこぼれる、釣りってこんなに楽しかったけ!
こんな風に意気込んで、和竿を手に入れたものの、あまり使う機会がなくタンスの肥やしになりかけていた。そんな時、「近所の漁港でカタボシイワシやコノシロがたくさん入ってきていろいろな魚が泳がせ釣りで釣れるから行こう!」と友人に誘われた。のでこれはチャンスだとばかりに、泳がせ専用の竿ではなく、和竿とアンバサダーを手にとり向かった。
釣り場に着くと堤防の上からでも分かるほど沢山のコノシロが漁港内を回遊していた。サイズは20cm~30cm弱といったところだ。数も多くサイズ感もちょうどいい。こんな状況なら釣果にも期待が持てる!
今日の泳がせ釣りは至ってシンプル。
まずは餌となるカタボシイワシやコノシロをサビキや引っ掛け釣りで釣って泳がせ用の仕掛けに付けて泳がせるだけ。
コノシロが泳ぎはじめたあとはアタリが出るまで竿掛けに竿を置いてゆっくりと友人と談笑していればいい。この日は冬晴れで木枯らしに吹かれることもなくゆっくりと魚のアタリを待つのに気持ちのいい日だった。友人と釣り談義をしながらアタリを待っていると泳がせている穂先がせわしなく揺れ始めた。

「キタキタ!!そろそろ食うんじゃない?」
フィッシュイーターが近くに現れ、それに驚いた餌の魚が暴れだしたのだろう。
専用の竿とは違い、細かいエサの挙動を拾えなかったりするので急いで置いていた竿を手に持ち、本命のアタリに備える。手の感覚に集中すると餌の魚が肉食魚に追われ、逃げ惑っているのを微かに感じられる。
「よしよし。喰らいつけよ…」
逃げ惑うエサ。さっきより激しく泳いでいるのを感じる。
急に、ゴン!っと金属バットで竿を叩くような強く乾いたアタリが竿を通して手に響く。
「よし!!喰った!!」このアタリは本命の魚だ。
しかしここで焦って合わせてはイケない。まだ彼はエサを食べきっていないので、直ぐに合わせるとすっぽ抜けて鈎に掛からない。
違和感を覚えて餌を離さないように、穂先を送り込む。ガジガジとエサを齧る感触が、微かにピリピリと手に伝わってくる。それに合わせて自分の心拍数が上がるのを感じる。
専用竿じゃないだけに、いつ合わせていいのかも分かりにくいことが余計にドキドキさせる。
「もう合わせようか…。いや、もう少し食い込ませるべきか。エサを離してしまうかもしれない。」
思考がグルグルとまわる。
この合わせのタイミングが泳がせ釣りの醍醐味であり、難しさでもある。合わせが早すぎてもエサを離してしまうし、遅すぎると食べきってどこかに行ってしまう。
1分ほどしっかりとエサを食い込ませ、そっと竿で魚が付いているか聞くが、この竿だとそんな繊細なことは正直よく分からない。それならばと覚悟を決めた。
「合わせるか…」
合わせを入れるために強く大きく竿を煽る。すると和竿が弧を描くように美しく曲がり手元にずっしりと魚の重みが乗る。
「よし!掛かった!」
和竿は自然に柔らかく曲がる。魚を寄せるパワーがある訳ではないがしなやかに竿は曲がり、魚を怒らせない優しさをみせる。
魚体を大きくくねらせながら浮かび上がってきたのは泳がせ釣りの大本命とも言えるヒラメだ。
50cmほどの中型のサイズだが、和竿で釣ったということも相まっていつも以上に嬉しい1本だ。自然と笑みがこぼれる 。あれ?釣りってこんなに楽しかったっけ?
竹竿だって十分楽しい
ー竹竿で釣りをしてみたいー
この思いつきに対する答えはシンプルだ。竹竿だって十分に楽しい。確かに本格的とは言えないし、快適さとは無縁かもしれない。それでも、和竿を使った釣りは十分に楽しめた。
「釣り」の楽しみ方には、さまざまなスタイルがあることを実感した。最新の道具は魅力的に見えるだろう。しかし、釣りの面白さはそれだけではない。
ヴィンテージの服を纏うように、古の和竿とリールの組み合わせで”不自由”を楽しむ。それは最高にクールでカッコいいスタイルだ。
最新への反骨精神。まさにロックな釣りの楽しみ方だ。

黒神樹
1999年生まれ。
釣具メーカーGAMAKATSUでルアー用品の企画に携わっている。
春から夏は全国の在来種のイワナ釣り。秋から冬は和歌山と徳島県を中心にヒラスズキ釣りを日課としている。また、釣り旅が特に好きで1尾との出会いを大切にすべく各地を巡っている。