菅田将暉主演『サンセット・サンライズ』
東北の地に釣り人が「お試し移住」することから始まる物語。
菅田将暉主演の『サンセット・サンライズ』(岸善幸監督、2025年公開)は釣り映画だ。しかし、同時に東北映画でもある。さらに言えば復興映画であり、地域創生映画でもあり、アフターコロナ映画とも言える。映画を観る人によって幅広く受け止められるように思う。
本作は楡周平原作の『サンセット・サンライズ』(講談社)を映画化。舞台は新型コロナウイルスで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。リモートワークを機に東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、家賃6万円の「神物件」に一目惚れ。三陸の宇⽥濱町(架空の地名)で、好きな釣りが楽しめる気楽なお試し移住をスタートする。仕事の合間に海に行き、釣りをして過ごす。そして、癖の強い地元住民と交流を重ねていく……という内容だ。
この映画、晋作の釣りが良い。フリーリグを中心にロックフィッシュを狙うスタイルで、ロックフィッシュの聖地である三陸に物件を求めた動機にリアリティがある。堤防からあんな大きなハタ系が上がるなんて夢のような環境だ。観ていて三陸に釣りに行きたくなった。主演の菅田将暉は、おそらくプライベートでも釣りをするのだろう。キャスティングやリールを巻くアクションが実に自然だった。しかも、相当の腕前なのではないかと、思って調べてみると、ほぼ経験がないそうだった。この仕事で釣りを学んだという(クレジットに釣り指導の名前が記されていた)。軽くキャスティングし、底をイメージしながらリールを巻く様子は熟練の動きのように見えた。役を取り入れる高度な役者としての能力に脱帽した。撮影後のインタビューで「釣りにハマると、時間が溶けてなくなってしまうので釣りを封印した」と言っている。たしかに、釣りは時間とお金が溶けていく。菅田将暉は演技がうまいだけでなく、大変聡明な人のようだ。
冒頭から映画は釣りを軸に回り始める。しかし、映画の中の時間が進むにつれ、東北の人々の抱える過去が明らかになる。そう、東日本大震災だ。岸監督は津波被害を受けた人々の再生を描いた『ラジオ』(2013年)を制作している。脚本の宮藤官九郎はNHKの連続テレビ小説『あまちゃん』で震災を描いた。重要な役を演じるミュージシャンの竹原ピストルも震災後、東北でたくさんのライブを行った。ロケ地の気仙沼では地震や津波、その後の起きた火災で多くの人が命や大切なものを失った。「絆」のひと言では語り尽くせぬ思いや感情が彼らの中にはある。
東北の地に釣り人が移住するという映画の構造は、すっかり震災のことを忘れた都会人たちの姿を浮き彫りにする。震災を経験した人の見る景色と、よそ者では同じものを見ていても、見えるものは違う。ただ、映画ではそれを乗り越えようとする人々の姿が描かれる。まずは『サンセット・サンライズ』は、お気楽な釣り映画として観に行ってもらいたい。その期待は大きく裏切られ、あなたは東北人のリアルを感じるだろう。そして、三陸の海に魅了される。映画を観た後、その海に釣りに行きたいと思うはずだ。
【INFORMATION】
『サンセット・サンライズ』2025年01月17日(金)全国ロードショー
出演:菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
公式サイト:sunsetsunrise-movie.jp
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