魚釣りの楽しみと言えば、食べること
海釣りの楽しみは、なんといっても魚を食べることだろう。そして、少しでも魚をおいしく食べるために、釣り人たちは船や港で魚の血抜きをし、アラを取り出し、氷に詰めて持ち帰る。最近では船内で神経締めをする人もいる(揺れる船内でよくやれるものだ)。以前は新鮮な魚こそがおいしいと考えられていたが、適切で丁寧な血抜きをすれば、魚は少々の時間が経っても劣化しないと広く知られるようになった。特に淡白な白身の魚などは、数日寝かせた方がうまい。だから、舌の肥えた釣り人は魚の処理を丁寧に行う。
しかし、家に帰るとやや憂鬱な気持ちになる。風呂に入り、ビールでも飲んで1日の釣りを振り返りたいところだが、クーラーボックスの中の魚が気になって仕方がない。
面倒なのがうろこ取りだ。いくら気を使って処理をしてもシンクに飛び散る。数日経って、なんでこんな所にという場所でうろこを発見することがある。ああ、面倒だ。しかし、数日後のおいしい晩酌のために心を無にして魚を捌く。
先日、釣具店でウロコ取りを見つけた。この『鱗トル』という商品には「ウロコが飛び散りにくい!」という控えめな言葉が添えられていた。通常の鱗取りは調理器具然とした姿(当たり前だけど)だが、取っ手に四角いシリコンが付いている不思議な形だった。店の人に聞くと、驚くほど簡単にウロコが取れるというので購入してみた。
こんなもので本当に鱗が取れるのかという不安
しかし、鱗取りをクーラーボックスの中入れたまま、存在をすっかり忘れていた。クーラーを開けて「なんだこれ?」と思ったほどだ。下田で鯛とカサゴを釣った際、宿に持ち帰ると、ご主人のYさんが下処理をしてくれるという。『鱗トル』を手渡すと「へえ」と薄い反応が返ってきた。そりゃそうだ。使い慣れた道具が良いに決まっている。試しに使ってもらう。「これで、ウロコ取れるの?」と不安そうだったが、使ってすぐに「おお!」「ほお!」という感嘆詞が出てきた。
タイのウロコにシリコンの角を当てると、づるるるるという感じでウロコが取れていく。タイのウロコは固いため、遠くまで飛び散ることがあるけれど、『鱗トル』では、ポロポロポロと剥がれるように落ちていき、飛び散らない。消しゴムでウロコを消していくというか、本当に不思議な感じなのだ。看板に偽りなし! 「これ、いいですね……」と、Yさん。日常的に魚の処理をする人が太鼓判を押した。『鱗トル』も、この宿で使われた方が本望だろう。Yさんに『鱗トル』を託し、自分用にもう一本購入することにした。こうやって、釣りの道具周りは年々アップデートしていく。ああ、もっと釣れる釣り竿が開発されたらいいのに。しかし、それは腕を磨くしかないのだ。