誰だって、こそっと釣りに行きたいときがある
ランチタイムにビールを飲んでいる人がいた。
いったい、どうなっているんだ。いや、待て。もしかすると、その人にとっての仕事終わりなのかもしれないし、ビール会社の人が実地調査のをしているのかもしれないなどと考える。まあ、本当はうらやましいだけなのだけど。昼酒に釣りも似ている。竿を持って出勤したり、出張に行くと、どうも不真面目に思われる気がしてならない。駅でジーッと見つめられたり(俺が働いているのにあんたは釣りかいというテレパシーが届く)、周りから「釣りに行くの?」と聞かれる(実際、そうなのだが)。
現実社会にそぐわない長さがいけない。3ピースロッドならなんとか行ける気もするが、長い2本継ぎはまずい。完全に非日常だ。「いまから、釣りに行くんです。サーフでヒラメを狙うんです」と、竿が大声で騒ぐ。存在が饒舌すぎる。この釣り竿問題をどうにかできぬものだろうか。
アブガルシアのパックロッド『ZoomSafari』を手にした時、これはいいと思った。これならバッグに忍ばすことができる。しかし、過度な期待はしていなかった。値段も手頃だったし、そこそこの竿なんだろうと考えていた。1本目は渓流や管理釣り場で使える4フィートほどの『ZoomSafari 404UL』を買った。仕事前に近所の管理釣り場を訪れた際、『ZoomSafari 404UL』のロッドの特性に唸った。継ぎ数が多いのでしなやかとは言えない、ULにしては堅さも感じたけれど、軽いスプーンもイメージ通りに飛んでいった。
以来、仕事で地方の町に行くときにはカバンの中にパックロッドを忍ばせて行く。竿がコンパクトだとタックルもシンプルになる。ナイロンの1号を巻いた小ぶりのリール、アジングのセット、小さなルアー、サビキを入れておいた。軽く竿を出したいときはこれくらいのセッティングで十分だった。しかし、人は欲深い生き物で、つい他の長さ、強さの竿も欲しくなる。7フィートがあればシーバスも、北海道でトラウトも狙えるかもしれない。8フィートならサーフにも行けるかも……。予定もないのにアブガルシアの竿が1本、また1本と増えていく。
しかし、無駄ではないだろう。コンパクトな竿はある種の保険だ。いつ、出張中にぽっかり時間が空いて釣りができるかもしれない(そんな時に限って潮の状況がいいのだ)。みなさんも不意な幸運に対して、言い訳をしないよう、パックロッドをバッグに忍ばせよう。心のどこかにパックロッドの存在があればいつだって釣りに行ける。楽しい釣りのチャンスが増えていくはずだ。