
自然を楽しむ、渓流釣りの世界
私、黒神は釣り好きが高じて釣具メーカーGAMAKATSUにて釣具の商品企画を行っている。特に渓流釣りも好きでシーズンが始まれば足繁く渓流に通っている。
群馬県という山に囲まれた土地に生まれたということもあり、初めてのめり込んだ遊びが渓流釣りだった。
初めて渓流魚を釣り上げてから10年が経った。25歳という年齢ながらすでに10年のキャリアがある事には自身も驚いている。しかし、10年経とうが渓流釣りの魅力は薄れる事なく未だに渓流シーズンの解禁を待ちわびている。つまり、それほどまでに渓流釣りという遊びは魅力的なのだということだろう。
今回はその魅力に触れてもらいたく、釣り歴1年FISHUP編集部ルーキーアングラーのせとう氏と渓流を共に歩いた。
渓流釣りのときめき
竿を持ち、冷たい水に足を浸しながら川を歩くだけで都会の暑さや喧騒から私を切り離してくれる。あるいは時おり相手してくれる渓流魚達に夢中になるうちに一日があっという間に過ぎてしまう。もちろん、魚が釣れればうれしい。けれど、それ以上に嬉しいのは、自然と自分がひとつになったような感覚を味わえることだ。
川辺に咲く小さな花、岩陰を飛ぶトンボ、遠くで鹿の鳴く声。
渓流には、釣果以上に豊かな“発見”が詰まっている。
シーズンに一日だけでもいい。渓流に足を運んでみてはどうだろうか?魚を釣るだけではない渓流釣りがきっと私達を迎えてくれるだろう。


初心者が始めるのに必要な“身を守る4アイテム”とほんの少しの心がけ
渓流釣りを楽しむには堤防や船釣りと違い“渓流を歩く”必要がある。転んで大切な釣り道具を壊さないためにもウェーディングシューズなどの専用のアイテムがいくつか必要になる。特に足元のアイテムは安全に釣りをするためにも、とても大切だ。
今回は渓流釣りを安全に楽しむための4つのアイテムをピックアップしてみた。
1.ウェーディングシューズ
https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1125122
色々なメーカーから様々なアイテム出ているが私のおすすめは少し値が張ってしまうがmont-bellのサワートレッカーだ。安物買いの銭失いにならないためにもしっかりとしたものを最初に選ぶのも大切だと思う。
2.偏光サングラス
https://www.gamakatsu.co.jp/products/le3002/
渓流では川底の石や魚のチェイスを確認するためにも他の釣りよりも偏光レンズを導入する事でQOLが上がるのは間違いないと思う。
木陰から急に明るい所に出たりといった光の変化が激しいので、ロゼなどのコントラスト効果が高めで明るいレンズがオススメだ。
3.グローブ
https://www.gamakatsu.co.jp/products/le7003/
岩や草木を掴む場面が多い渓流では手を切ってしまう事もあるので手袋の着用をオススメしたい。
釣りのしやすさを考えて3フィンガーのグローブがオススメだ。
4.チェーンスパイク
https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1129740
道から川にアクセスする斜面や滝を巻きたい時に大活躍するアイテムだ。
無理は禁物だが、これを着用するとそんな斜面登れるの?と思ってしまうような傾斜も登れてしまう。つまり、安全に川に入渓&退渓できるのだ。
さらに、靴下を履くような感覚でさっと簡単に着用できる。金属とゴムだけでできているので、使用後は沢でさっと汚れを落とし収納袋にしまうことができるのもなかなかいい。
渓流歩きに慣れていない方にこそおすすめしたい一品だ。

さて、これで渓流釣りを安全に楽しむためのアイテムが揃ったので釣りは始められるが、川に入る前に少しだけ立ち止まって考えて欲しい。
渓で出会う人達が一様に口にするのは“昔は良かった…”
記憶というのは一様に美化されがちだが、ことこのセリフに関しては実際にそうなのであろう。
なぜなら、川という狭い環境では魚は簡単に減ってしまうからだ。魚が減るのにも色々な原因はあるが我々に特に関係のある“漁獲圧”を考えて欲しい。
川という狭い環境に生息している彼ら渓魚はとても数が少ない。その川に1日10人が釣りをして、1人10匹持ち帰るとしよう。1人からしたらたった10匹かもしれないが、トータルで考えれば1日に100匹の魚が川から消えることになる。それは川という小規模な空間においては大問題だ。
個人の自由なのでリリースを強く推奨する訳では無いが魚が放流されていないような場所で釣りをする時はキープに関しては自分達がその川で今後何年も釣りをさせてもらうためにも少しだけ考えて欲しい。
FISHUP編集部員を渓流釣りに案内
6月某日、すでにセミが鳴き、FISH UP編集部のせとう氏を迎えに行った京都駅では朝の7:00だというのに外気温は30℃を指していた。
「流石に暑すぎる。まだ6月なのに…。」
せとう氏も「これは、もう真夏ですね…ホントに“釣り日和”なんですかね……?」と聞いてきた。
私は笑ってうなずきつつも、内心では少し心配していた。
私は暑いのは得意なほうなので問題ないのだが、渓流魚達は暑さにはめっぽう弱い。この暑さに加えて今年は極端に梅雨が短かった。そのせいで渓に流れる水が少なく“渇水&高水温”で渓流魚が夏バテ気味で釣れないという最悪な状況になっていないものかと少し心配しつつも一路目的の渓へ向かった。
道具の話をしながら、山へ向かう車中
道中の車内で、せとう氏がぽつりと質問してきた。
「ウェーダーって、ほんとに必要ないんですか? 普通のズボンでもいけるんですよね?」
「今時期であれば速乾性のロングパンツかレギンス+ショートパンツでも大丈夫ですよ!今日は長く歩くから、濡れても動きやすい装備の方が安心です。あと、暑いですからね〜ウェーダーよりも直接水に入る方が気持ちいいですよ!」
「なるほどですね!あと、川の釣りだから遊漁券…とか必要ですよね?」
下調べをしてきたのであろう。私もちょうど川に向かう前に必ず遊漁券の購入は必要だという話をしようと思っていたところだった。
「そうですね!川で釣りをする時は必ず遊漁券を購入してください。最近は紙の遊漁券だけではなく、アプリやWEB上で遊漁券を購入できるのでとても便利ですよ!」

そんな話をしているうちに高速道路を降りて山間に入り、目的の沢に向けてグングン標高を上げはじめた。それと反比例するように気温は下がっていく。すでに京都駅で感じた暑さなど噓のように涼しい。ふと川を覗くと、心配とは裏腹に水がしっかりと流れていた。どうやらここ数日連日のように雨が降っていたようだ。出発する前の“渇水&高水温”という私の心配は杞憂に終わったらしい。


入渓
目的の釣り場に到着した頃には電波が届かないほど山奥に来ていた。
電波も届かない山奥――せとう氏にとっては未知の世界だったようで、スマートフォンを眺めては「すごいですね…電波も通じない」と驚いた表情を見せていた。どこにいても当たり前に電波がある現代では電波が無いという事自体が特別なことらしい。
ワクワクしながらルアータックルを手に取り、靴をウェーディングシューズに履き替えてゆっくりと川へ降りていった。

川辺りに立ったせとう氏は釣りしたい気持ちが抑えられないとばかりに私を急かすように
「ええっと、ルアーはどれを使えばいいんですか?」
と聞いてきた
「渓流のルアーでは主にこの3種類がメインになります。主流となるのはシンキングミノーです。
シンキングというだけあり水に沈むので、自分の狙いたい深さに沈めてトゥイッチ(竿を細かく動かしてルアーを動かすアクション)などでルアーを動かして誘ってください!あとは、スピナーもオススメです!上流に向けて投げて巻くだけでとても釣れますので、なかなか釣れない時に投げてみてください!!先ずはスタンダードなシンキングミノーの釣りをやってみましょう!」

左:ミノー2種
真ん中下:スピナー
右:スプーン
キャストの難しさ
先ずはいつものようにキャストしてもらったのだが上手くいかない。それもその筈。
せとう氏が普段楽しんでいるのは海岸や船での釣りであり木々に囲まれた狭い渓流では、ロッドの振り方ひとつとっても勝手が違う。さらに狙うべきポイントも狭いためキャスト精度が求められのだ。
そこで先ずはボウ アンド アローという投げ方を覚えてもらうことにした。
ボウ アンド アローというキャストは海釣りしかしたことない人なら聞いたこともないかもしれないし、バス釣りをされている方ならそんな特殊なキャストを初心者にやらせるのか?と疑問に思うかもしれない。それは一般的には特殊なキャスト方法かもしれないが、こと渓流釣り特に源流域での釣りではこれ程理にかなっていて初心者でもすぐに習得できるキャスト方法も無いと思っている。正確にはボウ アンド アローの簡易版のようなキャスト方法だが。
利き手で竿を持ち、反対の手でルアーを持つ(ルアー本体を持つと鈎が指に刺さるので、鈎のフトコロを持つ)そして竿をしならせてルアーを持っている手離す。ボウ アンド アローと違うのはルアーを飛ばす時にティップではじき出すように投げるのではなく振り子の要領でルアーを飛ばすのだ。本家に比べれば飛距離は落ちてしまうが、難易度はぐっと下がり、キャスト精度は上がる。今回のような川幅のあまりないポイントでは飛距離もあまり必要がないのでこれで十分に成立するので初心者にこそ覚えて欲しい。この投げ方であればルアーを木に引っ掛けてロストする事も少なくなるだろう。
最初のうちはルアーを満足に飛ばせず、ため息をつく場面もあったが、次第にフォームが安定しはじめた。練習を重ねて30分ほどだろうか――
いいポイントにキャストが決まり釣れそうな雰囲気が漂っていた…

初めての一匹
すると岩陰から魚体がせとう氏のルアーをめがけてギュンと猛進してきた。
「チェイスだ!!!」
言い終わらないうちに魚がルアーに食いつき竿がしなり、魚がルアーを外そうとグルグルと回る白銀の影が見えた。
慎重にラインを巻き上げ、ネットに収まったのは、まるで宝石のようなイワナだった。
まだ若い個体ながら、腹部にうっすらとオレンジを帯びた体に散る白い斑点。
渓流魚の中でも、イワナの持つ野性味と繊細さは特別だ。
「うわ、きれい……」
せとう氏がそうつぶやいたとき、私はどこか嬉しさと安心感が入り混じったような気持ちで頷いていた。
写真を撮るために水面が波立っていない緩やかな場所にイワナを寝かせて静かにシャッターを押した。
初めてイワナを自分の手でキャッチし、写真を撮った。
せとう氏は先程までの疲れきった表情と一変しキラキラと輝いていた。
そして、水に返すその瞬間まで、彼の目は魚から離れることはなかった。

昼食
イワナをリリースしたときには13:00を回っていたのでその場で昼食をとることにした。
夏とはいえ、常に冷水の中を歩く渓流釣りでは体が冷えてしまう。そこで持ってきたシングルバーナーを使いお湯を沸かしカップラーメンを食べることにした。
「こんな場所で食べたら、なんでも美味しいですね」
私もこの自然の中で食事をするのがとても好きなのだ。ただのカップラーメンのはずなのに特別美味しく感じてしまう。人間の味覚というものは舌だけで感じるものではないのであろう。食事をする場所や雰囲気が味にすら影響を及ぼすまさに“自然と共にある時間の味”かもしれない。
とにかくせとう氏はとても満足そうにラーメンを頬張っていた。

退渓
昼食を終えた後は少しだけ釣りをして我々は退渓した。
退渓後の楽しみというと…キンキンに冷えたコーラの350mlを一気飲みすることだ。これが本当に美味しい。渓流で長距離歩いて疲れた体に染み渡り多幸感に包まれる。
帰りの車内でせとう氏が
「これ、趣味にしちゃいそうです。地元でも行けそうな場所を探して行ってみます!」
その言葉が何よりうれしくて、またひとり、渓流の魅力に出会った仲間が増えたことに、私は密かに頷いていた。



黒神樹
1999年生まれ。
釣具メーカーGAMAKATSUでルアー用品の企画に携わっている。
春から夏は全国の在来種のイワナ釣り。秋から冬は和歌山と徳島県を中心にヒラスズキ釣りを日課としている。また、釣り旅が特に好きで1尾との出会いを大切にすべく各地を巡っている。